川崎市(主催者)とセレサ川崎農業協同組合(協力)、そして川崎市内の農家の、
かわさきコンテンツアワード2010 Creator Meets Agricultureに寄せる熱い期待と思いをお届けします。
主につくっているのは、パンジー、シクラメン、ポインセチア、葉ボタンなどで、鉢で栽培する鉢物といわれるものです。僕は19歳で家業を継ぎました。おじいちゃんの代から花卉(かき)園芸を始め、父親の代で施設栽培に、僕の代になってハウスを2棟増やしました。
以前は農園の大半がパンジーでした。市場に出すまでもなく、花屋さんが毎日のように買い付けにきてくれてました。市場でも100円で売れた時代もありましたね。店頭では200円ぐらいで出てたんじゃないですか。それがどんどん売れなくなっていった。地方で大規模栽培が始まりパンジーの量が増えたことと、最近は造園も下火で、パンジーの需要が減っているんだと思います。いまはポットのパンジーが100円ぐらいで買えますよね。ホームセンター売りになってから単価がぐんと下がりました。一度安いものだってなったものの価格って上がらないですからね。作業自体は機械化のおかげで少し楽になりましたけどコストは変わらないですから、厳しいですよ。
シクラメンはミニシクラメンから6号鉢までつくっています。シクラメンの出荷は暮れですが育てるのは1年がかりです。6号鉢は主に贈答用で3500円ぐらいで売られています。シクラメンもずいぶん単価が安くなりました。農園でも直売をやっているんですが、お客さんはお年寄りが多くて若い人はほとんどいません。やっぱり贈答用として多くの人に喜ばれるものでないと単価は出ませんからね。以前は品評会で一等になったら2万円ぐらいの値段がついていたんです。いまはその半値ぐらいじゃないですか。先輩たちに勝ちたくて賞取りを目指して頑張っていたこともあったんだけど、いまは賞を取ってもいいことってないですね。
景気のせいもあるんでしょうけど、花の売り上げは例年悪くなっていってます。売れなくて、売れても単価が安くてもうけにならないから、花屋さんをやめてしまう人も多いですよ。 同業の仲間たちもみんな元気ないんですよね。「そのうちよくなるよ、よくなるよね」って言いながら、なんとか続けているという状況です。従業員を抱えていたら大変ですよ。夏にポットものを出荷したら10円とかですからね。それじゃ経費も出ない。みんな親から継いだものだからやってるってところもあるでしょうけど、でもやめるって難しいんですよ。新しく始めるってわりと簡単だけど、やめるって難しい。本当にどうしたらいいですかね。どうすればいいんだろう。
今後は野菜の苗といった食べられるもののほうにシフトしていこうと考えています。家庭菜園をやる人も増えているようですしね。野菜の苗はいいですよ。バジルが198円でべコニアが100円なんて、花より野菜の苗のほうが高く売れることもあるんです。かけてる労力は花のほうが数段上なんですけどね。いまも春は、バジル、パセリ、青じそ、ミニトマト、ニガウリといったものをつくっています。夏はトウガラシですね。約1万2000鉢つくっているんですけど、これは売れます。でもこれ以上ひろげるつもりはありません。水やりが大変なんです。鉢ひとつひとつに手作業で水をやっていくんですけど、露地だとそうでもないんですが、施設は水やりが欠かせないから。今年の夏なんてどれだけ水をやり続けたことか。
しかも野菜の苗って安定して出ますからね。野菜って毎日食べるものだから、暑くても、高くても買わなくちゃいけないでしょ。花って、暑かったり、雨が降っちゃうと、本当に売れませんからね。だって暑いときに庭いじりする人なんていないでしょ。そこが食べ物と花との違いですよね。人が生活していく中で花ってなくても我慢できちゃいますからね。
例えば贈り物で果物をもらったとしたら、その場で食べて「おいしい!」ってなりますよね。すぐに喜びを得られるんです。で、おいしければまたすぐ買ってもらえる。だけどシクラメンでよく言われるのが「ゴールデンウィークぐらいまでもったよ!」ってことで、長い時間かかってようやく評価してもらえるんですよ。長く咲いているから3500円の花束を買うよりよっぽど安くて得だと思うんですけどね。だけどダメになるから切花は回転するわけで、鉢物は手間をかけていいものをつくって長くもてばもつほど出なくなる。皮肉なものです。
人気の高いトウガラシ
春は花を野菜の苗に変えていくことができるけど、秋はどうしようもないんですよ。秋だとカリフラワーやブロッコリーなんですけど、そんなに量をつくってもね。だからシクラメンが終わったら休もうと思っているんです。今年は僕いつから休んでないんだろ? たぶん6月から1日も休んでないと思います。シクラメンが終わる暮れまではずっとこのままですからね。だから1月から春までは少し休んでゆっくりする。そうやって農業をいろんな人にやりたいと思ってもらえるような職業にしないと、次の世代に引き継がれていかないですよ。
このあたりの農家は、畑にマンションを建てて不動産業で食っている人も多いんです。周りの農家仲間がいなくなっていくのを見ているから、よけいめいってしまうってところもあるんだと思います。だけど考えてみたら、僕、農業をやめてしまったら何もやることがないんですよね。うちもある程度は不動産業もやっているんですが、完全にそれだけにはなりたくないなって思っています。自分の子供に「何の仕事やってるの?」って聞かれたときに、胸はって言いたいんですよね。
種をまいて、毎日水をやって、だんだん花が咲いていく様子を見てると、すごくうれしいんですよ。ここ一面に咲きますからね。それを見てるだけで本当はいいんです。幸せな気持ちになれるんですよ。だからこの仕事はやめられないんです。こんな場所を離れてみんなどうやって生きているんだろう、農業をやめた連中は何をやって毎日過ごしているんだろうって思うときもあるんです。農家に生まれたからしようがなく農業をやってるって人もいると思うけど、考えてみたらいくらやりたいと思っても、農業ってなかなかやれるものでもないんですよね。この辺りはマンションばかりになってしまいましたけど、都市の中に花を育てている場所があるっていうのも貴重なことじゃないかなって思うんです。
ま、いまは辛抱ですよ。自分も楽しみながら、お客さんにも喜んでもらいながら、僕らなりのやり方で農業を続けていきたいと思っているんです。
秋に向けて武笠農園一面にビオラが咲く
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